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日本は観光大国になれる?

JNTO(日本政府観光局)は2025年1月15日、速報値として、2024年の訪日外国人旅客数が推計で3687万人となったと発表した。前年比47.1%の激増ぶりで、これまでの最高であったパンデミック前、2019年の3188万人を15.6%上回るものであった。旅行者の国、地域別では、韓国(881万人)、中国(698万人)、台湾(604万人)、米国(272万人)、香港(268万人)が上位5カ国、次いでタイの114万人までが百万人超えとなっている。

年間3687万人というインバウンド旅客数は、世界的に見ても、各国での集計が出ていないものの、トップ10にランキングされるものだ。いよいよ日本が観光立国として存在感を現してきた。上位には、フランス、スペイン、米国、イタリア、トルコと常連の観光大国がその地位を占めているが、どこまで日本が迫れるか楽しみではある。

日本政府が、2015年までのインバウンド需要の取り込みでの成功体験をベースにして2026年3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」として新たに策定した訪日外国人旅行者獲得目標は、2020年に4000万人、2030年に6000万人という、相当に野心的なものであった。2019年には、800万人まで迫ったが、新型コロナにより、2020、21、22年は全く数字にならなかった。

コロナ開けの2023年には、折からの日本ブームとコロナ期にできなかったリベンジ消費としての訪日客が激増し、2506万人まで一気に回復させ、2024年には遅ればせながら第一目標であった4000万人を完全に射程に捉えたのだ。この先は、2030年に6000万人がターゲットとされている。大きな災害がなければ5年で5割増は十分達成可能な目標と言えるだろう。

ところで、この訪日客獲得にはもう一つ目標があった。これらの旅行者による消費需要獲得目標である。

2020年:訪日旅行者数4000万人、消費総額8兆円(一人当たり20万円)
2030年:訪日旅行者数6000万人、消費総額15兆円(一人当たり25万円)

実績はというと、2024年に訪日旅行者数3687万人に対し、消費額は8兆1395億円(一人当たり22万762円)と、2020年の目標を消費総額ではクリアしてしまった。近年、人気観光地を中心にオーバーツーリズム問題がクローズアップされ、各国とも旅行者数よりも消費額を重視する方針にかじを切っていることからも大いに意義がある。

この点では、日本は島国であり、また多様なレベルの高い観光地、サービス、商品を提供できることで外国人旅行者一人あたりの消費額が比較的大きくなることが強みと言える。また、2024年では一人あたりの消費額の大きい中国人旅行者がコロナ前の水準に達していない現状を考えると、今後とも、消費額の拡大が期待できる。

ただし、消費額の達成要因という点では、為替レートを忘れてはいけない。2019年のドル/円の年平均レートは110.0円。これに対し、2024年は151.3円であった。4割近くの円安になっている。値上げがなければ4割引き。この間、各国では旅行者にとって一番関係のあるホテル、レストラン、エンターテイメントなどのサービス関連料金が爆上している。私の経験でもアメリカでのレストラン、ホテル料金は少なくともドル表示で2倍になっている。円に換算すると、、、さらに悲惨な状況になる

このことは、一方で、多くの外国人にとっては、国内旅行よりも日本に旅行したほうが、まだまだデフレから抜けられない(つまり懐に優しい価格)と為替レートによるボーナスを二重に受けられるのである。その結果、自国と比べて1/2~1/3の低価格で、より高品質の食事、サービスを満喫できる。訪日客にとって、今の日本は、「天国みたいな訪問先」なんでしょう。

ということで、今後、大規模な災害がなければ2030年には6000万人の訪日外国人旅行者数が確実視されるし、世界的なインフレ状況もあって一人当あたり消費額25万円(今のレートではわずかに1600ドル)も全く高い目標ではないといえる。(ドル円が、100円を大きく割り込み、世界的な金融恐慌があれば別な話ではあるが)

2024年の日本のGDPが610兆円とすれば、訪日客の消費額8.1兆円はGDP比率1.3%程度で、ドイツを除く欧州主要国の2.5%超に比べて、半分程度の水準となっている。2030年の総消費額ターゲットの15兆円もGDP比率は2%程度に留まる見通しで、まだまだインバウンド市場開発の余地は大きい。一方、今後、各国ともインバウンド需要の取り込みには一段と注力してくることが予想される。優良な外国旅行者獲得を巡って競争激化は必至であり、の知恵を不断の努力が怠れない。

この点、気になるのが、日本からのアウトバウンド旅行者の低迷ぶりだ。JNTOの同じ発表資料でも、2024年の日本人出国者数は1300万人でしかない。この数字は、同年の訪日外国人旅行者数の1/3程度でしかなく、2019年の出国者実績に比較して35%も少ないレベルだ。円安という海外旅行にはアゲインスト要因もあるが、ここでも日本人の内向き志向が出ているようだ。

以前にも指摘したが、日本に多くの訪日外国人を迎えるためには、より多くの航空路線が必要になる。その航空路線網をビジネスとして採算性を維持するためには、一方向だけの人の流れに頼っていたのでは無理がある。日本の場合、依然として人口も経済規模も相対的に大きい国であることも考えれば、インバウンドだけを切り分けてのプロモーションではなく、アウトバウンド需要の喚起を各レベルにおいて真剣に行うことで、「両方の市場拡大を並立」させることが決定的に重要だと強調しておきたい。